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Flour Party

創作小説を載せています

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「まだ帰らない!? 何バカなこと言ってるんですか! 今すぐにでも出ましょうよこんな島。危険ですって」
ベラさんが上目づかいで私を睨んだ。その眼力にひるんだ私は思わず目をそらした。そして、ちょうど視界に入った女の子を指さしてまくし立てた。
「この子なんて特に危険ですよ! ベラさんは聞いてなかったでしょうけれど、この子は魔力を蓄えているんですよ! それはきっともうめちゃくちゃいっぱいにですよ! 魔力を"奪う"んじゃなく"蓄えている"んですよ。めちゃくちゃ危険じゃないですか。幸い今なら魔女は伸びてますし、この子も攻撃してこなさそうですので、逃げるなら今です! すぐ出ましょう。今出ましょう。早くこんな島出ましょうよ、ベラさん!」
ベラさんは小さくため息をついてそっと女の子の頭を撫でた。私はハッと息を飲む。
「ベラさん、何して……」
「大きくなったな、ウェンディ。外は楽しいか?」
「うん! でもお姉さんだぁれ?」
「……知らなくていいことさ」
女の子は首を傾げた。アルさんがベラの知り合い? と訊き、私は一人オロオロとしていた。すると不意にベラさんが女の子を抱えて飛び上がった。
「まだ帰れないんだよ。やることがある」
そう言って天井を仰いだ。

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僕は落ちてくる岩を必死に避けて近くの家の中に避難した。大きな音か、いきなり現れた僕に驚いたのか、リビングにいた女の人は唖然としていた。その足元にはお皿が数枚割れて落ちている。僕はすいませんと軽く会釈した。そして、砂煙が収まったのを確認して窓からそっと外を見た。ベラが赤い髪をなびかせてあたりをキョロキョロと見まわしている。その足元には丁寧に正座したアクアと、アクアに下敷きにされた能面の人がいた。その横には同じように伸びている女の人と、無邪気に笑う女の子もいる。女の子は上から落ちてきたわけではないのか、いたって元気に女の人の頭を叩いている。起こそうとしているのかもしれないけれと、僕は心の中で痛そう……と呟いた。
「おーい、アル? いないのかー?」
ベラが僕を呼んでいる。全然必死に探している風に聞こえないその声音に僕は少し肩を落として、ここにいるよと小さな声で答えた。ベラが僕を見つけて少しだけ口元を緩ませる。次いで僕を見つけたアクアが家の中に入ってくる。
「アルさん! 無事でしたか? 早くこんな島出ましょう。ここは危険です。この人たちは魔女だったんですよ! あの女の子も魔力を蓄えるとかわけのわからないことしてますし!」
アクアはまくしたてながら僕の腕を引っ張った。
「いたたた、痛い痛い!」
「あ、ごめんなさい」
アクアはハッとして手を放した。広場で、能面の人に腰かけたベラと女の子が何か話している。近くまで来てやっとその声が聞こえた。
「……いいや、まだ帰らねぇよ」

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いくら助けてと願ってもベラは来てくれない。僕がこんな目にあってるなんて彼女が知るはずもないから、当然と言えば当然だけれど……。
なぜだか少し寂しく思った。
「笑え、青年」
「……い、いやだ!」
僕は能面の人を突き飛ばして駆け出した。ほとんど同じ景色の路地を右に左に曲がり逃げる。何度目かの角を曲がってそっと後ろを見てみた。真後ろにも、曲がり角の向こうにもあの人の姿は見えない。僕はホッと息を吐いた。そして、ここはどこだろうと周りを見回して息を飲んだ。
そこは元いた広場だった。少し離れたベンチに能面の人が座っている。僕はすぐに回れ右をした。
「追いかけっこは嫌いなんだよ」
すぐ後ろで声がして、手首を強く掴まれる。僕は悲鳴を上げて暴れた。能面の人が何かを言った気がしたがそんなの関係ない。ただひたすらに、この人から逃げることだけを考えていた。
その時、いきなり大きな音がして天井が崩れた。広場にいた人も全員天井を仰ぐ。
崩れ落ちてくる岩と砂煙の隙間で、紅い天使が舞っていた。

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飴を舐めながら無邪気に笑う女の子はまだ可愛げがある。けれど、その頭を撫でながら笑う魔女は不気味そのものだ。私は音を立てないように後ずさりした。

だいたい、魔力を蓄えるとは一体どういうことなのか。魔力は生まれたときからその絶対量は決まっている。他人のを吸い取って自分の魔力に変換するという能力もあるらしいけれど、それは一時的なもので、決して蓄えるという表現はしない。なら、今目の前で行われているのは一体……?

考え事をしながら後退していたら、大きな木の根につまずいて派手に後ろに倒れ込んでしまった。その音で魔女に気付かれてしまう。

「あら、逃げようとしたの? 無駄なことを。第一、この場から逃げ出せたとして、どうやってこの島から出るつもりなのかしら? あなたたちが乗ってきた船はもう粉々よ。それに、大切なお友達を見捨てて一人逃げるだなんて、なんて薄情な子なのかしら」

口を歪めて魔女が笑う。私は金縛りにあったかのようにピクリとも動けない。真っ白な霧が辺りを包み込んで、私の視界はゼロになる。

「かわいそうな子。お友達も助けられずに、森の中で人知れず死んじゃうのね。ああ、かわいそうかわいそう」

魔女の笑い声がすぐ近くで聞こえる。きっと私はあのナイフで切り刻まれて死んでしまうんだろう。嫌だ、こんなところで……

「助けて。誰か、助けて!」

「……うるさいなぁ、聞こえてるよ」

空を仰ぐと、霧の隙間に燻った赤色が見えた。

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銀色のナイフが光って、振り下ろされたそれは腕の隙間から心臓に突き刺さり、真っ赤な血がどばーっと……なんてグロテスクな展開にはならなかった。なかなか来ない刺激に恐る恐る目を開けると、あの女の子が魔女の腕に絡みついていた。目の前でナイフの刃先がきらりと光って、私は悲鳴を上げながら飛び退く。今すぐ逃げたいのに、腰が抜けて立ち上がれない。女の子は駄々を捏ねる様に魔女の腕を揺さぶった。

「ちょっとウインド、邪魔しちゃだめよ」

「やだやだー! お姉ちゃんちょうだいよー。今! 今欲しいのー!」

「もう、しょうがないなぁ。フラッシュには内緒よ? 本当はもっと間隔を開けないといけないんだからね」

「わーい! ファグお姉ちゃん大好きー」

今なら逃げられる。

魔女が女の子に気を取られている内にそっと後ずさりをした。

「ほら口開けて。はい、あーん」

「あーーーん」

 女の子はいかにも甘そうなピンク色の飴を頬張った。満面の笑みでほっぺを押さえている。魔女は女の子の頭を撫でながら優しく笑う。

「もっと強くなるのよ。もっともっと魔力を蓄えて、大きくなるのよ」

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