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Flour Party

創作小説を載せています

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  ベラが空を飛び回って、俺が闇雲に放つ雷を避けている。狙って放てば一発で仕留められるだろうが、集中している間に逃げられてしまう。今一番重要なのは、奴をこの場から逃がさないことだ。

「いい加減諦めて捕まったらどうだ!」

「冗談じゃないね。ボクは捕まる訳にはいかないんだよ! オメェが殺した彼のためにも……」

「俺が殺した? 思い当たる奴が多すぎて分かんねぇな」

 俺は微笑を浮かべた。ベラは今、会話に夢中になってあまり動いていない。今なら狙って撃ち落とせる。俺はわざとベラを挑発した。

「戦争で死んだ奴か? あんきゃあいっぱい殺したからなぁ。一体誰のことだかさっぱりだな」

「彼は彼だ。村の人たちのことだってボクは忘れない。みんなボクの大切な人だったのに!」

「大切……? フッ、バカバカしい。いい加減学べ。てめぇと関わった奴は、例え会話をしただけでも殺すに値する。てめぇは存在してちゃいけねぇんだよ!」

「うるさい! 関係ないだろ!」

 ベラが身を固め、力いっぱい叫んだ。もう十分だ。今の会話の間に狙いは定まった。もう逃がさないぞ、ベラ。

「これで終わりだベラ! “雷柱(トールボルタ)

 太い柱状の雷がベラを貫く。ベラはこれぐらいじゃ死にやしないだろうが、体が痺れてしばらくは動けないだろう。俺は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「楽しそうだね」

 背後から聞こえた声に、俺の笑みは引き攣ったものに変わった。

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 数時間空を飛び、ボクはアルがいた島に戻って来た。着いた頃にはすっかり日が暮れていて、街灯の明かりしか点いていなかった。もっとも、そっちの方が姿を見られず好都合なのだが。

「こんな大金を捨てて来いだなんて、アイツはイヤな奴だ。海兵志願者には、やっぱりロクな奴がいない」

 そんなことをブツブツとつぶやきながらあのお屋敷があった山へ行くと、なにやら話し声が聞こえてきた。ボクは慌てて木の陰に隠れる。

「それで? そいつは確かに、赤い髪の女だったんだな?」

「は、はい。間違いありません」

 そっと顔を出して様子をうかがうと、壊れた屋敷のガレキの中で、ボクが倒したあの魔物が誰かと話していた。相手は魔物の陰になって見えないが、きっとヤツだと確信した。

「それで、貴様はみすみすその女を取り逃がしたと言うんだな?」

「ええ、まあ……ちょっと油断しまして。次こそは必ず!」

「……次?」

ヤツが剣を振り上げた。途端に、雲一つない空から雷が降ってくる。雷は魔物を直撃した。その大きな音に、ボクは耳をふさいでうずくまりながら、小さく悲鳴を上げた。魔物は真っ黒になって倒れた。

「俺の世界に次などねぇ。一度来たチャンスをモノにできねぇ奴はいらねぇんだよ」

 ボクはその場に金の袋を置いて、すぐにその場を立ち去ろうとした。飛び立った瞬間、雷が当たり周りの木がすべて倒れた。思わず振り返ったボクはヤツと目が合った。

「言っただろう? 一度来たチャンスをモノにできねぇ奴はいらねぇと。裏を返せば、俺は必ずチャンスを逃さねぇ。てめぇが俺の前に姿を現すなんざ、そうそうねぇチャンスだと思わねぇか?」

「おあいにく、ボクは好きでオメェの前に現れたワケじゃない」

「てめぇの動機なんざ関係ねぇ。ここで会ったが百年目! 今度こそひっ捕らえてやる!」

 辺り一帯に雷が降り注いだ。

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宿屋を営んでいるという親切なおじいさんは、私たちをタダでその宿に泊めてくれた。ずっと夜みたいに暗いせいで、はっきりとした時刻が分からない。宿には、なぜか時計が一つもなかった。用意された部屋は、まるで私たちが来るのを待っていたかのように、完璧に整理されていた。私は、船に乗せていた着替えなどの荷物をベットの隣に置いた。初めてフカフカのベットに触った、と大はしゃぎしているアルさんを横目に、私は財布を取り出す。
「アルさん。あなたの服を買いに行きましょう」
「ありがとう、アクアさん」
 アルさんは姿勢を正して、ペコリとお辞儀をした。綺麗な甘栗色の髪が少し揺れる。私はドアに近付きながら、背中越しに言った。
「アルさんはこれからどうするんですか?」
「どうって?」
「もうご自身の島は出てこられたのでしょう? その島に戻るつもりはなさそうですし。これからはベラさんと旅をするのですか?」
 ドアを開けながらそう聞くと、アルさんは急に黙って、考え込んでしまった。アルさん? と話しかけると、アルさんはハッとして、早く行きましょうと言いながら、そそくさと部屋を出て行ってしまった。私は慌ててその後を追う。すると、不意に服の袖を引っ張られた。振り返ると、あの男の子が不安そうな顔で見上げていた。私はしゃがんで彼と目線を合わせた。
「どうしたの?」
「お姉ちゃん、どっか行くの?」
「うん。連れの服を買いにね。おかしな恰好をしてるでしょう?」
 男の子は今にも泣きそうな顔をして、声を潜めて言った。
「霧! 霧が出る前にあの人を連れ戻して! 霧が出て外に出ると、みんな悪魔に食べられちゃう。早く!」
 私はその言葉を聞いて、弾けるように走り出した。なぜか、すごく嫌な予感がした。
 外に出ると、角を曲がるアルさんの背中が見えた。急いで追いかける。うっすらと霧が出てきた。その霧はすぐに濃くなって、何も見えなくなる。角を曲がった辺りで、私は声を張り上げた。
「アルさん! 返事してください。アルさん! 危険です! 宿に戻りましょう!」
「アクアさ……」
 一瞬、アルさんが私を呼ぶ声が微かにしたが、すぐに静かになった。私は不安になって、最悪の視界の中、アルさんを探して闇雲に走り回った。
 ようやく霧が晴れた頃、私は宿の前にいた。
「どうしよう。アルさんが消えちゃった……!」

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ベラが飛び立ったあと、僕らは浜に船を着けた。相変わらず空は夜のように真っ暗で、不気味なことこの上ない。僕はアクアの服の袖をギュッと握った。
「なんですか?  歩きにくいので離れてください」
「そ、そんな冷たいこと言わないで下さいよ。怖いんですから」
 
 僕を引き剥がそうとするアクアと、離れまいとする僕。二人でバタバタとしていると、ジャリッと誰かが砂を踏む音がした。動きを止めてそっちを向くと、杖をついたご老人と小さな男の子がいた。
「あ、あの。僕らは怪しい者じゃなくて……」
「よくぞ来てくれました。歓迎いたしましょう、旅のお方」

ご老人はニッコリと笑って言った。子供はなぜか寂しそうに僕らを見ている。ご老人は僕の手を取って歩き出した。置いてきぼりにされたアクアは、ちょっとー! と文句を言いながらついてくる。
「ご、ご老人。手を引かれたままだと歩きにくいので……」
「ああ、これはすみません。旅の方なんてそうそう来ませんもので……ようこそ歓迎の島へ! 丁重におもてなしいたしますよ。たとえ、あなた様のように変わった服をお召しの方でもね」

ご老人はしわくちゃの顔をほころばせた。僕は苦笑いを浮かべる。そのとき、子供がそっと僕の袖を引いた。手で屈むように促す。僕がしゃがむと、子供は小さな声で耳打ちをした。
「すぐに逃げて。ここは悪魔の島。男の人はみんな食べられちゃう」

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「服を買おう」

 ボクがそう言うと、アルがお金は? と聞いてきた。ボクは懐から二つの袋を取り出した。ジャラジャラと金の音がする。アルは少し驚いて、どうしたものなのか聞いてきた。ボクは正直に答える。

「盗んだ。キミがいたあの屋敷から」

 その言葉にアクアが眉を寄せた。怒ったような声でいけませんよ、と言う。ボクは袋を戻して、フンッとそっぽを向いた。

「死んだ人間に金なんか使えない。なら、ボクが使う方がいいだろ? 金にはいつも困ってるんだ」

 ボクがそう答えると、アクアが睨んでくる。そんなものちっとも怖くなかったから、ボクはベーっと舌を出した。アクアはもう一度、いけませんよと言った。オールから手を離して、スッと後ろを指差す。

「返してきて下さい。私の前で泥棒はさせませんよ。仮にも、海兵志願者なのですから」

「返さない。ボクら神族は、金を稼ぐことはできないんだ。どうやってアルの服を買う? どうやって食べ物を買えばいい? どうやって寝たらいいんだ!?

 半ば怒鳴るように言うと、アクアは少し考える素振りをして、大きなため息をついた。

「私が買ってあげますから。人のものを盗るのはいけません」

 ――いい? 人のものを取ってはダメよ――

 ふと、お母様の言葉を思い出した。あの床の冷たさが、動かない足によみがえる。

 ――どうして? おかあさま、どうしてダメなのです? ボクらはぜんぶとられたのに――

「……ラ? おーい。ベラ!」

 名前を呼ばれて我に返った。アルの顔が目の前にあって一瞬驚く。アルはすぐにまた船にもたれかかった。

「大丈夫? ボーっとして。ほら、島が見えてきたよ」

 ボクは何も言わずにアルの指差した方を向いて、暗い海にぼんやりと浮かぶ島を眺めた。背後からのアクアの視線が突き刺さるように痛い。ボクは小さくため息をつき、わかったよと言って飛び立った。

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