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Flour Party

創作小説を載せています

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    島を出てしばらくすると、ずっと叫び続けていたアルが急に大人しくなった。やっと落ち着いたかと一安心する。正直言って、人を抱えて飛んでいる上に暴れられたらたまったものじゃない。正直もうクタクタだ。どこかで休めないかと辺りを見回しても、一面真っ青な海が広がるだけで、島影も何も見えない。
「君は誰? どうして僕の名前を? 神族って何? その翼は?」
    質問攻めに遭った。めんどくさくて小さなため息が漏れる。どう言ったら手短に分かりやすく伝えられるか。
「ボクの名前はベラだ。それと・・・キミは女神伝説を知ってるか?」
「知ってるよ。人間を守っていた女神が魔王に殺される話」
   ボクはうん、とうなずいた。あの話を知っていたら説明がだいぶ楽になる。
「その話は実話なんだ。それで、女神に力を分け与えられた一族を『神族』と呼ぶ。その中で、女神が予言したように力を濃く受け継いだ者たちのことを『神の使徒』と呼ぶ。ここまでは分かるか?」
   アルは小さくうなずいた。そのとき、丁度海面に浮かぶ小舟を見つけた。漂流でもしたのか、誰も乗っていない。もうだいぶ疲れていたから、迷わずアルを降ろし、ボクも縁にもたれかかるようにして座った。翼を背中に仕舞う。アルは少し驚いて、それ以上に話のことが気になったのか、それで? と首を傾げた。
「僕や君が、その神の使徒ってやつなのかい?」
「使徒は他にもたくさんいる。ボクは翼の能力を受け継いだからこの翼が生えている。ただし、キミは特別なんだ、アル。キミは女神の力を受け継いだんじゃなく、女神の生まれることのなかった御子の生まれ変わりなんだ」
    アルは少しだけ呆然としたが、すぐにこの海原に響き渡るほどの大きな声で叫んだ。

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   大きな音がして、僕は恐る恐る目を開けた。体をあちこち触ってみるが、別にどこも怪我していない。目の前にいた大男は消えていて、代わりに現れた真っ白な何かに僕は目を奪われた。新月の闇の中でも、光っているかのようにはっきりと見えて目を引く。長く赤い髪が風になびいた。
「大丈夫か?」
   振り向いたその人は、あのフードの人だった。しかしフードは風に揺れ、その顔が露わになっている。深緋色の混じった金色の瞳と目が合った。一瞬怖くなって身をすくめる。少女は僕の手を引いて立たせてくれた。
「・・・きれいだ」
   僕は思わずつぶやいた。すると少女は怪訝そうな顔をして、綺麗なんて言うな! と怒鳴った。僕は肩をすくめる。ビクビクしていると、少女は大きなため息をついた。
「キミは男だろ? 情けないなあ」
    不意に大きな音がした。少女の背後に目をやると、崩れた建物からあの大男が出てきた。僕はまた悲鳴を上げる。
「いってぇなぁ! なんなんだてめぇ!」
    大男は叫ぶと同時に姿を消した。僕が呆気に取られていると、少女に腕をつかまれた。ふわりと浮かび上がり、地面から足が離れる。そして、僕たちのいたところの地面が、大男の斧によって砕かれた。サッと血の気が引くのを感じる。後ろでバサッと音がした。首だけで振り返った僕は息を呑んだ。あの白いものは、少女の背中から生えた大きな翼だった。
「つ、翼!? なんだそれ!?」
「うるさい。舌噛むぞ」
    少女は雄々しい口調で僕の言葉を足蹴にした。近くの建物の屋上に、乱暴に僕を降ろす。
「い、痛いです! なんなんですかあなたは!?」
「アル! 島を出るぞ。長居は無用だ」
   少女はまた僕の言葉を無視して、立ち上がった僕を背後から抱きかかえるようにしてがっしりとつかむ。
「どうして僕の名ま・・・うわああああああ!」
    少女は僕の言葉を遮って飛び立った。大男が遥か下で何か叫んでいる。その声は高さのせいか僕の悲鳴のせいか、全く聞こえなかった。

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    振り返った僕は大きな悲鳴を上げた。そこにいた人は、真っ黒なマントに身を包み、顔がわからないほど目深にフードをかぶっていた。たとえそれが僕の知っている人だったとしても、僕は同じように叫んでいただろう。その人は大きくため息をついた。
「わめくな。まだ上に奴がいる。聞こえてしまうだろう?」
   そう言って、その人は手で僕の口を塞いだ。僕はさらにパニックになり、逃げようと必死に暴れる。手を噛むとその人は手をひっこめた。その瞬間、僕は全力で逃げ出す。運のいいことに、僕は逃げ足だけには自信があった。あっという間にその人は見えなくなった。
「なんだったんだ、あの人は・・・」
   そう呟きながら前を向いた瞬間、目の前に大きな斧が落ちてきた。斧が刺さって、コンクリートの地面にひびが入る。ギリギリのところで当たりはしなかったが、僕の心臓はバクバクと大きく脈打った。
「ぎゃああああああ!!!」
   悲鳴を上げてその場に立ち尽くす。斧が持ち上げられるのに連れられて顔を上げると、新月の闇の中に立つ、角の生えた大男と目が合った。僕はまた叫んだ。
「てめぇ・・・なんで気付いた? 完全に気配を消していたってのに、てめぇ、気付きやがったな? てめぇがあの、神族か。胸糞わりぃ! 殺す殺スコロス!! 神族は皆殺しだぁ!」
    男は叫びながら斧を振り下ろした。僕は恐怖で体が固まって動けない。それでも声だけは出続けた。
「ぃやああああああああああああああああああ!!!!!!」
    目の前に斧が迫った瞬間、僕は死を覚悟して、ギュッと目をつぶった。

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    ボクは高いところから屋敷を見下ろした。やっと居所を見つけたのに、すでに時遅し。崩れた屋敷にゆっくりと降りた。あちこちに死体が転がっている。しかし、その中に探している人はいなかった。うまく逃げたか、あるいは連れていかれたか。とりあえず、ボクは足元の死体を担ぎ上げた。
「これでいいかな? 巻き込まれて死んじゃうなんて、不運だったねキミたち。ただの人間が魔族に出会ったら、まず生きてはいられないからね」
    屋敷の裏庭に即席の墓を作って、静かに手を合わせた。見ず知らずの人たちだが、ボクたちの争いの巻き添えを食ったかわいそうな人たちだから、せめてもの供養だ。人にはやさしくするべきだと、亡くなったお母様がよく言っていた。それで何が報われる訳でもないだろうにと、小さくため息をつく。手の土を払ってフードをかぶりなおした。
「さてと・・・どうしたものかな」
   とりあえず、生きて逃げたことに賭けて、街の方にでも探しに行くことにした。
秋の夜風が吹く中、ボクはぶらぶらと街中を回った。日が暮れてもうだいぶ経っているから、大通りにも人気がない。明かりがついているのは飲み屋程度だった。ガラの悪そうな男たちが下品な笑い声を上げている。そんなところに、今朝会ったあの臆病そうな彼が入れる訳もないだろう。連れていかれたか、と諦めかけたとき、街の外れで動く人影があった。急いで飛んで行く。
「なんだ、生きてたか。運のいいやつ」
    探していたアルは、あの屋敷に続く階段の前で息を整えていた。後ろからゆっくりと近づく。肩に手をかけると、その肩が大きく跳ねた。ひぃ! と小さな悲鳴が聞こえる。そしてゆっくりと振り返った。

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   私はイライラしながら目の前のマカロニをフォークで刺した。大好きなグラタンを食べながらも、ちっともおいしいと感じない。それがまた、不快で不快でたまらない。
パンを買って来いと命じたアルは夕食の時間を過ぎても戻らず、不機嫌な私に怯えるメイドたちの目がなおさら不愉快だ。大急ぎでグラタンを作ったのも、私の機嫌を取るためだと思うと腹立たしい。その上、アル以外が作ったグラタンはなんともまずい。それがさらに私の機嫌を損ねた。
   半分ほど食べたところで、もういらない、と席を立つ。早くお風呂に入って寝てしまおう。そう決めた。なのに・・・
「あ、人間見っけ」
    私の進行を邪魔するかのように大男が廊下に立っていた。何かが私の中ではじけ、私は大声で怒鳴りつけた。
「あなた! 一体誰ですの? 私の屋敷に勝手に入り込んだ挙句、私の進む道を塞ぎましたわね。どういうおつもり? あなた、一体何様のつもりですこと!?」
    大男は私の言葉を無視して、ゆっくりと辺りを見回した。そして、大きくため息を吐く。
「なんだつまんねー。殺していいのはたったこれだけかよ」
    そう言うなり、大男は持っていた斧を振り下ろした。かろうじて避けた床に大穴が開く。メイドたちの悲鳴が響き渡った。
「あ、あなた。私が誰かわかっていてこのようなことをしているの? わ、私は、この島で一番偉いのですよ! 一体何様のつもりなんですか!?」
    私はすっかり腰が抜けてその場に座り込んだ。みっともなく叫び続けるしかない。大男はまたも斧を振り上げて言った。
「あ? 魔物様だよ」
    私よりも大きな斧が振り下ろされる。私は動くことができなかった。

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