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Flour Party

創作小説を載せています

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    振り返った僕は大きな悲鳴を上げた。そこにいた人は、真っ黒なマントに身を包み、顔がわからないほど目深にフードをかぶっていた。たとえそれが僕の知っている人だったとしても、僕は同じように叫んでいただろう。その人は大きくため息をついた。
「わめくな。まだ上に奴がいる。聞こえてしまうだろう?」
   そう言って、その人は手で僕の口を塞いだ。僕はさらにパニックになり、逃げようと必死に暴れる。手を噛むとその人は手をひっこめた。その瞬間、僕は全力で逃げ出す。運のいいことに、僕は逃げ足だけには自信があった。あっという間にその人は見えなくなった。
「なんだったんだ、あの人は・・・」
   そう呟きながら前を向いた瞬間、目の前に大きな斧が落ちてきた。斧が刺さって、コンクリートの地面にひびが入る。ギリギリのところで当たりはしなかったが、僕の心臓はバクバクと大きく脈打った。
「ぎゃああああああ!!!」
   悲鳴を上げてその場に立ち尽くす。斧が持ち上げられるのに連れられて顔を上げると、新月の闇の中に立つ、角の生えた大男と目が合った。僕はまた叫んだ。
「てめぇ・・・なんで気付いた? 完全に気配を消していたってのに、てめぇ、気付きやがったな? てめぇがあの、神族か。胸糞わりぃ! 殺す殺スコロス!! 神族は皆殺しだぁ!」
    男は叫びながら斧を振り下ろした。僕は恐怖で体が固まって動けない。それでも声だけは出続けた。
「ぃやああああああああああああああああああ!!!!!!」
    目の前に斧が迫った瞬間、僕は死を覚悟して、ギュッと目をつぶった。

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    ボクは高いところから屋敷を見下ろした。やっと居所を見つけたのに、すでに時遅し。崩れた屋敷にゆっくりと降りた。あちこちに死体が転がっている。しかし、その中に探している人はいなかった。うまく逃げたか、あるいは連れていかれたか。とりあえず、ボクは足元の死体を担ぎ上げた。
「これでいいかな? 巻き込まれて死んじゃうなんて、不運だったねキミたち。ただの人間が魔族に出会ったら、まず生きてはいられないからね」
    屋敷の裏庭に即席の墓を作って、静かに手を合わせた。見ず知らずの人たちだが、ボクたちの争いの巻き添えを食ったかわいそうな人たちだから、せめてもの供養だ。人にはやさしくするべきだと、亡くなったお母様がよく言っていた。それで何が報われる訳でもないだろうにと、小さくため息をつく。手の土を払ってフードをかぶりなおした。
「さてと・・・どうしたものかな」
   とりあえず、生きて逃げたことに賭けて、街の方にでも探しに行くことにした。
秋の夜風が吹く中、ボクはぶらぶらと街中を回った。日が暮れてもうだいぶ経っているから、大通りにも人気がない。明かりがついているのは飲み屋程度だった。ガラの悪そうな男たちが下品な笑い声を上げている。そんなところに、今朝会ったあの臆病そうな彼が入れる訳もないだろう。連れていかれたか、と諦めかけたとき、街の外れで動く人影があった。急いで飛んで行く。
「なんだ、生きてたか。運のいいやつ」
    探していたアルは、あの屋敷に続く階段の前で息を整えていた。後ろからゆっくりと近づく。肩に手をかけると、その肩が大きく跳ねた。ひぃ! と小さな悲鳴が聞こえる。そしてゆっくりと振り返った。

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   私はイライラしながら目の前のマカロニをフォークで刺した。大好きなグラタンを食べながらも、ちっともおいしいと感じない。それがまた、不快で不快でたまらない。
パンを買って来いと命じたアルは夕食の時間を過ぎても戻らず、不機嫌な私に怯えるメイドたちの目がなおさら不愉快だ。大急ぎでグラタンを作ったのも、私の機嫌を取るためだと思うと腹立たしい。その上、アル以外が作ったグラタンはなんともまずい。それがさらに私の機嫌を損ねた。
   半分ほど食べたところで、もういらない、と席を立つ。早くお風呂に入って寝てしまおう。そう決めた。なのに・・・
「あ、人間見っけ」
    私の進行を邪魔するかのように大男が廊下に立っていた。何かが私の中ではじけ、私は大声で怒鳴りつけた。
「あなた! 一体誰ですの? 私の屋敷に勝手に入り込んだ挙句、私の進む道を塞ぎましたわね。どういうおつもり? あなた、一体何様のつもりですこと!?」
    大男は私の言葉を無視して、ゆっくりと辺りを見回した。そして、大きくため息を吐く。
「なんだつまんねー。殺していいのはたったこれだけかよ」
    そう言うなり、大男は持っていた斧を振り下ろした。かろうじて避けた床に大穴が開く。メイドたちの悲鳴が響き渡った。
「あ、あなた。私が誰かわかっていてこのようなことをしているの? わ、私は、この島で一番偉いのですよ! 一体何様のつもりなんですか!?」
    私はすっかり腰が抜けてその場に座り込んだ。みっともなく叫び続けるしかない。大男はまたも斧を振り上げて言った。
「あ? 魔物様だよ」
    私よりも大きな斧が振り下ろされる。私は動くことができなかった。

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    結局朝食の時間には間に合わず、奥様の大目玉を食らった僕は、今日一日何でも言うことを聞くという条件で許してもらえた。僕はいつも使用人の中でもよく命令されるから、特に変わった風にはならなかったことは幸いだと思う。
日が傾き始めた頃、奥様が大きな声で僕を呼んだ。かなり慌てた声に少しおびえながら、僕は奥様の前に跪いた。
「お呼びでしょうか」
   すると奥様は、大広間の階段の上から僕を指差し、大きな声で言った。
「パンが食べたいわ! 今まで食べたことがない、甘くておいしいパンよ。今日の夕食はそれに変更よ!」
    僕は心の中で大きなため息を吐きながら、いつものわがままに黙って従う。すぐに山を下りた。
急いだものの、街に着いた頃にはすっかり日が暮れてしまい、ほとんどの店は閉まっていた。パン屋どころか飲み屋程度しか開いていない。見つかる訳ないとぼやきながらも、奥様の命には逆らえないので、僕は行くあてもなく夜の街をうろついた。
   ふと時計台を見上げたときには、すでに夕食の時間を一時間以上も過ぎていた。カンカンに怒っている奥様を想像して身震いする。パンは諦めてもらって、すぐにでも大好きなグラタンを作って差し上げよう。僕はくるりと踵を返し、来た道を屋敷へ向かって走り出した。
    山の麓の屋敷へ続く階段の前で立ち止まり、荒くなった呼吸を整える。階段のてっぺんを見上げて僕はおかしなことに気付いた。いつもなら頂上に屋敷の明かりがぼんやりと見えるはずなのに、今は真っ暗で何も見えない。ふてくされて寝てしまったのだろうか。ならば、なおさら早く帰って謝らなければ。階段に足をかけたとき、不意に後ろから肩に手が置かれた。臆病な性格の僕は大きく肩を震わせ、ビクビクしながらもゆっくりと振り返った。

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   僕はいつも通り、まだ空が暗いうちに目覚めた。寝床の藁を整え、キッチンに出る。勝手に電気はつけられないから、テーブルに置いたランプの明かりだけで床を掃いた。ついでに水回りもきれいにする。あらかたきれいになると、買い物用のカゴとボロ財布を片手に外へ出た。
    市場まではかなりの距離があり、歩いていくと、着く頃にはたいへんな賑わいを見せていた。僕は立ち並ぶ品々を丁寧に、しかし早足で歩きながら見比べていく。真っ赤なリンゴは手に取り蜜を調べ、尻のにおいを嗅ぐ。きらびやかなペンダントなどは、奥様に似合うだろうなとは思いつつも、センスがない僕は立ち止まって眺めたりなんてしない。朝の市場で買っていいのは食べ物だけ。実際、それ以上のものを買うお金は持たされていない。
   必要なものを全て買い終わるとすぐに市場から離れた。人通りの少ない道を、カゴをあまり揺らさないようにしながら全力で走る。今日は目当ての食材がなかなか見つからなかったから、全力で走っても朝食の時間に間に合わないかもしれない。流れる汗も気にせず、ただひたすらに足を動かした。慣れた道で前を見ていなかったせいもあって、角を曲がったときに歩いてきた人とぶつかった。せっかく買ったリンゴが一個、宙を舞う。それを相手の人がキャッチしてくれた。素早く立ち上がりリンゴを受け取る。
「すみません。ありがとうございます」
   そう言って頭を下げるとすぐにまた駆け出した。
「・・・アル」
   名前を呼ばれた気がして、足を止めずに目だけで後ろを見た。そこには誰もいなかった。

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